M.S.(マスター)ゆーとの 理系就活
東京工業大学生命理工学専攻で修士課程を修了した後、某大手化学会社で8年間、生産技術職や研究職を始め、様々な仕事をこなしたM.S.ゆーとが理系就職のリアルを語る企画。
今回は技術職のマニアックな話について話を伺ってみた。
さらに詳しい理系職の話
池田 このシリーズ、職種紹介をメインにやってきましたが・・・・、そろそろネタ切れの感じがしません?
M.S.ゆーと
うーん・・・、確かに苦しくなってきたかな・・・。あれ、もしかしてこの企画打ち切り?
池田 ネタがないんじゃ仕方ないですよね。けどもっと記事出したいんで、何か考えて下さい。
M.S.ゆーと
うーん・・・・。そしたら、表面上の職種紹介は終わったから、今度は少しディープな内容にしますかね?
池田 もう結構ディープだったと思うんですけど・・・・。これ以上マニアックにしてどうするんですか?
M.S.ゆーと
実際にやる仕事内容に近い話を聞けた方がミスマッチにつながらなくていい</span>じゃんね?イメージしてた仕事と実際に求められるものが違ったら学生も会社も不幸になるじゃんね?やっといた方がいいと思うんだよー。
池田 どこの方言やねん!(ビシッ
素晴らしいリアクションですね!
池田 そしたら試しに1つやってみましょうか。
規格とは奥深いものだった
池田 そうすると、今日のマニアックテーマは何になります?
M.S.ゆーと
プロセスエンジニア職とか品質管理職で「安定製造」とか「工程管理」のような言葉を出したような気がするので、「きかく」をキーワードに詳しく話してみようと思います。
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今回は品質管[…]
池田 「きかく」というと、営業企画とかのあれですか?何だか文系っぽいような・・・。
M.S.ゆーと
その「企画」ではなく「規格」です!
M.S.ゆーと
ある数字の範囲内なら合格で、それを超えたら不合格みたいなやつです。ネットで言葉を調べると「品質、大きさ、形状などについて定められた標準のこと」のように出てくるやつです。
池田 ほお。ということは、
製品検査で合格とか不合格とか決めるためのやつですね。
M.S.ゆーと
そうです。その規格を定めるために何をするかとか、規格でどのように管理していくのか、のような話をしていこうと思います。
池田 うーーん???すみません、全くイメージがつかないんですけど。「規格を定める」って、規格はそもそもあるものじゃないんですか?
M.S.ゆーと
そんなことは無いです。というのも、どんな製品も初めは規格が存在しておらず、新製品として生まれてきて、初めて規格が定められます。
池田 なるほど。言われてみればそうですね。
ペットボトルが似合いますなぁ〜!
M.S.ゆーと
イメージしやすいように、今回もペットボトル用のプラスチックを例に考えてみましょう。プラスチックというのはだいたいこんな風に作られるんですよ。
池田 ええと???「重合」とか言われてもわからないんですけど。
M.S.ゆーと
重合っていうのは、エチレンなんかの二重結合を切ってくっつけて長い鎖にする反応でこれを繰り返すことによってポリエチレンテレフタレートに・・・・
池田 (プスプス・・・)
M.S.ゆーと
あ、えっと、、、、プラスチックを作るための反応です。プラスチックって水の中で反応させて作るから乾燥が必要になって、使い勝手がいいように粒の大きさにカットして出荷されるんですよ。
池田 ふーん。。。。水色の粒がプラスチックの粒で製品ということですね?それが検査されるですね。
規格とはまどろっこしいレベルで奥深いものだった
M.S.ゆーと
規格はお客様の要求を満たすレベルで設定されます。例えば、ペットボトルが壊れない最低の引張強度が10 MPaだったとすると、少し余裕を持って20MPa以上が規格になったりします。
池田 「ひっぱりきょうど」ですか?引っ張りにどれだけ耐えられるかみたいな意味でしょうか?
M.S.ゆーと
そうです!JISで定められた分析方法に則って、プラスチックの成形物を千切れるまで引張って測定する数字です。
池田 そうすると、分析して20MPa以上なら合格なんですね。それ未満なら不合格ということで。なんだ、何も話に深みがなかったですね。
M.S.ゆーと
いやいや、何勝手に話を終わらせているんですか!
うげぇ!!!
池田 え?終わりじゃないんですか?
undefined
勿論これだけじゃ終わりませんよ!
分析はただやるだけではなく、「分析頻度」を決めないといけないんです!!!
池田 なんだか話がまどろっこしくなっていきそうな予感・・・・。
M.S.ゆーと
どういうことかというと、規格が20MPa以上なのに対し、測定するたびに50MPa近辺の数字が出るのと、23MPa近辺の数字が出るのとじゃ安全性が違いますよね?
池田 確かに!いつも50MPa以上の数字が出るなら、たまにしか分析しなくても安全ですね。逆に23MPaあたりの数字が連続するんじゃたまに規格を下回りそうですね。
M.S.ゆーと
そうなんです!かといって、全て分析していたら人件費が膨大になってしまいます。なので、いかに少ない分析点数で安全性を確保するかがとても重大になるんですよ。
池田 なるほど、わかりました、わかりません!!!
池田 言ってることはわかるんですけど、何をするのか全く見当つきません。
M.S.ゆーと
安全を確保できるかどうかの判断は統計を使ってやります。平均値と標準偏差を使って、規格を外れる可能性がどれくらいあるかを見極め、分析頻度を決定します。
池田 ・・・・・はい。
M.S.ゆーと
例えば、新製品候補の試作品が2つあって、それぞれ30サンプルずつ引張強度を測定したら下のグラフのようになったとします。
パソコンも似合いますなぁ!
池田 ・・・・・・・・・はい。
M.S.ゆーと
試作品1(ピンク線)の方は規格の20MPaギリギリの測定値が連続しているので、将来規格を下回ることがあるかもしれません。なので、もしこれを製品化してしまった場合は、規格内であることを保証するために分析点数を多くしないといけません。こんなにギリギリじゃ、もしバッチ式の場合は毎バッチ測定しないとダメですね。
池田 ・・・・・・・・・
M.S.ゆーと
逆に試作品2(青線)の方は規格を大きく上回っているので分析するのは1ヶ月に1回くらいでもいいかもしれません。
池田 ・・・・・・・・・
お?
M.S.ゆーと
試作品1はどれくらいの可能性で規格を下回るかというと、それぞれ平均値と偏差を求めると下表のようになります。試作品1は、平均から1σ(シグマ)低い値がほぼ規格の20MPaなので、これだと約16%の確率で規格を下回ることになるんですよ。
引張強度(MPa) | 試作品1 | 試作品2 |
平均 | 22.8 | 54.1 |
偏差(σ) | 2.2 | 3.6 |
平均+3σ | 29.3 | 65.0 |
平均-3σ | 16.2 | 43.3 |
池田 ・・・・・・・・・
おおお?!
M.S.ゆーと
まあ、そもそもこんな状態で製品化なんてしたらダメですけどね。もし試作品1みたいなものが製品だった場合は、工程を工夫して平均値をあげるか、バラツキを小さくしないといけません。と、軽く説明するとこんな感じになるんですがわかりましたか?
池田 ・・・・・・・・・
M.S.ゆーと
あれ?池田さん?池田さーーーーーん?
池田 ・・・・・・・・・
あちゃーー(笑)
M.S.ゆーと
う、、、うむ、まあ良かろう。睡眠は明日への活力だ。これで明日またたっぷりと仕事をしておくれ。
M.S.ゆーと
ということで、ディープな部分の入口くらいまで話をしたMSゆーとの回でした。
技術者になると、エクセルで「average」とか「stdev」は1日最低1回は使うことになると思います。これはこれで楽しい世界なので、面白いかも、と思った方は是非こちらの道も考えてみてください。
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