M.S.(マスター)ゆーとの 本当は怖い理系職
東京工業大学生命理工学専攻で修士課程を修了した後、某大手化学会社で8年間、生産技術職や研究職を始め、様々な仕事をこなしたM.S.ゆーとが理系就職のリアルを語る企画。
今回は品質管理職のリアルについて話を伺ってみた。
夢でうなされる仕事
池田 さて、本日は品質管理の仕事について話を聞いていきたいと思います!品質管理って言葉の響きがものすごく地味な気がするんですけど。これって誰でもできる事務系の仕事か何かでしょうか?だとしたらつまらないんですけど・・・・。


今日もまた低いテンションで切り込んできますね・・・。品質管理は確かにデスクワークが多い仕事ですが、めちゃくちゃきつい仕事ですよ。一般人がやったら精神崩壊しかねない・・・。
池田 いやいや、そんな大袈裟な。

それが大袈裟でもないんですよ。品質管理の人は、お客様のところに納入した製品で問題が発生すると謝りに行くのも仕事なんですが、お客様によっては怒鳴り散らしてくるんですよ。
池田 それって最悪じゃないですか。自分が直接関わってない製品でも仕事として耐えなくてはいけないんですね?

はい、なので、私の先輩に品質管理の仕事をやっていた人がいたんですが病んでましたよ。夜うなされて、突然布団の上に土下座して「申し訳ありませんでしたーーー!!!!!」と叫んだらしいです。

池田 うけますね(笑)

いや、笑いごとでは無いですから(笑)そんなことが続いたら身体が持たないですよ。
検査から始まる品質管理
池田 とにかく恐ろしい職場みたいですね、なんだか逆に興味が湧いてきました!もっと面白い話ください!

いや、あの・・・、これって具体的な仕事内容も話す企画でしょ?話さなくていいの?
池田 そういえばそうでした!そしたら、品質管理の具体的な仕事について、出来るだけ面白く話してください。

なかなか無茶ぶりしてきますね。そうですね・・・・、品質管理の仕事は、読んで字のごとく品質を管理することです。・・・・って、面白く話せるわけないですから!!!

池田 じゃあ仕方ないんでいつも通りお願いします。

はい、それでは品質を管理する具体的な方法について話していきます。まずは製品検査 をして不良品を見つけ、それをお客様のところに出さないようにします。
池田 作ったものをノーチェックでそのまま出荷しないということですね。

そうです。もし万一、お客様と取り交わした規格外のものを出荷してしまったら契約違反になりますからね。
検査だけでも盛沢山
池田 その製品検査をするのが仕事なんですね。製品検査ってどんなことするんですか?

製品によって検査項目は違うし会社によって色々あると思うので一概にお伝えすることはできませんが。例えば、ペットボトルのキャップが製品だとします。
池田 ふむふむ。

考えられる検査項目は、まずは「外観」。白いキャップに異物が入っていないかどうかのチェックです。白いキャップに黒い点が入っていたら気持ち悪いですよね。

池田 そうですね。ただ、それって人がやるんですか?

機械がやるところはあるかも知れませんが、人がやるところも多いと思います。機械で異物検査するのって想像よりはるかに難しいんですよ。なので、人が外観検査やるようなところはまだまだ世の中に沢山あると思います。
池田 いやいや、カメラで異物を見つけるだけでしょ?出来ないわけないじゃないですか。

ややマニアックな話になってしまいますが、たとえば形状が複雑な場合、検査中に影が出来るとそれが異物で判定されます。あと、模様がある製品の場合、機械だと模様なのか異物なのか判定するのが難しかったりするんですよ。人が見れば一瞬でも。
池田 なるほど、人の目は優秀ですね!

そして、強度のような項目もあると思います。蓋を閉めて壊れたら問題ですからね。たぶん、機械が決められた力でキャップを押して、キャップの変形具合を見るとか、あるいは、完全に押し潰すのにどれくらい力が必要かを測定して検査すると思います。

池田 ふむふむ。そうすると、ペットボトルのキャップの例だと検査する項目は2つということですね?

いや、もっとあると思いますよ。例えば、ちゃんと円形になっているかとか、キャップ内側の溝はしっかり入っているかとか、熱にどれくらい耐えられるかとか。世の中の色んな製品、材料の検査項目は沢山ある でしょうね。
池田 なるほど、品質管理の仕事は盛りだくさんですね。ありがとうございました。

いやいや、これ、製品検査の話をしただけで、まだまだ他にもありますから。
雑な人をしばき倒す品質管理
池田 まだあるんですか・・・・。

はい、お客様から叱られるのはいやですから、品質保証の人達は気合入ってますよー。たとえ製造現場から嫌われてもいろんなことを厳しく管理しています。

池田 具体的にどんなことをしているんですか?

たとえば、細かいところで例をあげると、製造日報や運転員交代時の引継ぎシステムは守られているかなど、ルールのチェックをしています。日々の業務が雑になると作業でミスする確率はあがりますから。
池田 僕なんかだと品質管理の人達にしばかれそうですね・・・・。工場の勤務は絶対にできないな。

そうですね。細かなことを守れないと事故につながりますし、品質低下にもつながります。自動車関連の部品でトラブルが起きようものなら億単位でリコールが発生して会社が潰れかねないですし。品質管理の仕事は超重要ですよ。
池田 なるほど。他にも何かありますか?
悲しいかな、恨みを買う品質管理

あとは、統計的に製造現場で異常が発生していないかチェックしたり、原材料で問題が発生しないように、原料メーカーをしばきに(監査に)行ったりですね。
池田 統計的にチェック?また難しそうですね・・・・。

そうですね。ただ、その辺りの仕組みを作るのはプロセスエンジニアで、実際に運用していくのは製造だったりしますけどね。

池田 え?そうすると品質管理の人って何をするんですか?

プロセスエンジニアや製造部門の人達に向かって「おい、お前ら、不良品を出さないように管理する方法を考えろ。データを出せ。出来ない?ふざけるな。管理できなかったら出荷できなくなるぞ?それでいいのか?」みたいに詰め寄って、管理方法を考案させます。品質管理の人は、その決まりが製造現場でしっかり守られるかどうかをチェックします。
池田 あれ?それって・・・・・楽じゃないですか?

そんなことないですよ。品質管理の仕事、私は絶対にしたくありませんでした。なぜなら、この仕事は技術者からも現場からも、お客様からも恨みを買う仕事ですからね・・・・。辛いですよ。
品質管理職は力がつく!
池田 そうなんですね、そうすると品質管理の仕事はどのような人が向いていると思いますか?

向いてる人には2パターンあると思います。1つは、現場のおっちゃんたちに「そんなことできねえよ!」と強く言われても、「いやあ・・・、そこを何とか・・・・」と物腰柔らかく説得できる人。もう1つは、官僚のように冷徹に「そのように決まったのでやって頂きます」と恨まれても何しても決まりを押し通せる人。

池田 なるほど。今までの話を聞く限りでは品質管理の仕事は辛いことしかなさそうなんですが、品質管理の仕事ってどんな良いことがあると思いますか?

会社の上流から下流まで、広く修羅場を体験できる仕事です。管理の仕組みはとても細かくよく出来ているので、そのあたりの経験ができれば広い視野で仕事を構造的に捉える能力を身につけられると思います。
池田 きつい仕事はそれ相応に身に付くものが大きいということですね。本日は品質管理職の仕事について話を伺いました。ありがとうございました。
東京工業大学生命理工学専攻で修士課程を修了した後、某大手化学会社で8年間、生産技術職や研究職を始め、様々な仕事をこなした…